公営住宅は退去時に原状回復が必要ですか?
公営住宅の退去時には、民間賃貸住宅と同様に原状回復が義務付けられています。民間賃貸住宅との最大の違いは、原状回復の範囲に通常損耗や自然損耗(経年劣化)が含まれる点にあり、自治体ごとに細かなガイドラインが制定されています。
これは、民間賃貸住宅では、通常損耗や自然損耗による貸主の損失が毎月の家賃に含まれているのに対し、公営住宅ではその特性から、この損失分が家賃に含まれていないためです。よって、公営住宅の退去時にかかる費用は民間賃貸住宅に比べると、どうしても高額になりがちです。
前提として、損耗にはどのような種類があるのでしょうか。また、それぞれ、どのような傷や汚れが該当するのか、ケース別にご説明します。
【まとめ】損耗の種類と具体例、民間賃貸と公営住宅の費用負担範囲
下表は損耗の種類やその具体例を、公営住宅と民間賃貸の入居者の費用負担と共に、表形式でまとめたものです。
例外はありますが、公営住宅では「通常損耗」「自然損耗」「特別損耗」のいずれの場合においても、原状回復に際し、入居者の費用負担が発生します。
損耗の種類 | 概要 | 具体例 | 入居者の費用負担 | |
公営住宅 | 民間賃貸住宅 | |||
通常損耗 | 借り主が居住する中で生じた、故意や過失によるものではない、汚れや傷みのこと。 | ・家具の設置によってついたカーペットや畳の凹み ・電化製品の背面についた黒ずみ(電気焼け) ・エアコンの設置跡 ・壁に貼ったポスターや絵画の跡 |
必要 | 不要 |
自然損耗 | 居住を問わず、年月とともに自然に生じた劣化を指す。別名、経年劣化。 | ・日照による畳や壁紙の変色 ・設備機器の故障、使用不能(機器の寿命によるもの) |
必要 | 不要 |
特別損耗 | 借り主が故意や過失(清掃不備等)によって付けた傷や跡、汚れのこと。 | ・雨が吹き込んだことによる畳やフローリングの色落ち ・結露の放置によるカビや染み ・子どもの落書き ・喫煙による壁紙の変色や臭い ・壁等のくぎ穴、ネジ穴(下地ボードの張替が必要なレベル) ・引越作業で生じた傷 |
必要 | 必要 |
実際に「畳の表替え」や「ふすまや障子の張替え」、「ガラスのはめ替え」などの費用を入居者負担としている事業主体も少なくありませんので、入居前に確認しておくと良いでしょう。現状回復の範囲は、通常、入居時に配布される「入居のしおり」にも掲載されています。
工事内容別の費用目安
参考までに、以下は工事内容ごとの費用相場です。
工事内容 | 費用相場(目安) |
畳の表替え | 1畳につき、5,000円~20,000程度 |
障子の張り替え | 1枚につき、3,000円〜4,500円程度 |
ふすまの張替え ※普通サイズ(高さ190センチメートル、幅95センチメートルまで)の襖を想定 |
片面で、3,000~4,000円程度 |
ガラスのはめ替え ※大きさや厚み、種類によります |
1枚につき、13,000~30,000円程度 |
公営住宅を退去する際には、事前連絡の上、指定期日までに退去届の提出が必要です。その後、指定日に公社職員が退去立会い検査を行います。立ち入り検査で指摘された箇所は、退去日までに必ず全てを修繕しなければなりません。
経験や技術がある場合は、ふすまや障子の張替えを自分で行うのもひとつの手段です。
原状回復が不要なケースとは?
ただし、例外として、原状回復が不要なケースもあります。それは、建物の老朽化や耐震面等の問題により、取り壊しや集約・建替えが予定されている住宅に住んでいる場合です。
築年数の古い公営住宅の場合、浴槽・風呂釜や網戸等の必要な設備がなく、入居時の費用負担が増える場合もありますが、先述のようなケースに該当すれば、退去時の費用負担がなくなるというメリットもあると言えます。